発熱、背部痛、悪寒、戦慄を主訴に来院された30代の女性。急性局所性細菌性腎炎の診断の下、何とか通院加療にて完治できた症例を経験しました。 発熱、背部痛、悪寒、戦慄を主訴に来院された30代の女性。急性局所性細菌性腎炎の診断の下、何とか通院加療にて完治できた症例を経験しました。

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急性局所性細菌性腎炎(AFBN)

数日前から出現した38℃台の発熱と、右腰背部痛、悪寒、戦慄を主訴に当院受診された30代の女性。現病歴から、尿路感染を鑑別診断の1位として考えられますが、患者さんの希望と院内まん延防止からインフル、コロナ抗原検査も行い陰性であることを確認した上で、診察室にて理学的所見を取り始めました。
腹部所見としては上腹部から下腹部にかけては弾性軟で圧痛なし。筋性防御もなく、腹膜刺激症状は無き事を確認。続いて両側背部の叩打痛の有無を確認したところ、主訴に挙げられていた右背部の叩打痛が顕著に認められており、右腎に炎症のfocusがあるものと考えられました。
その後、尿路エコーにて腫瘍や結石、水腎症などの器質的な要因、尿路閉塞等がないか確認したところ、右腎中央部に楔状の低エコー領域が認められており、この部分に炎症のfocusがあるものと判断しました。検尿所見としては、尿沈渣上RBC10-20/hpf、WBC30-50/hpfとUTI(尿路感染)を認めており、また、緊急採血の結果WBC23110↑(正常値3300-9000) CRP11.66↑(正常値<0.3)と異常高値を示しており、本来なら入院加療でもおかしくない状態です。ただ、水腎症などの尿路閉塞がなかったこと、社会的背景として産褥期で授乳中であったことなどから、入院という選択肢は極力避けたい事情がありました。患者さんには、現状は楽観視できない状況ではある事を充分説明した上で、年齢もお若いし、経口摂取はしっかりできている事、家事等は行わず、極力安静にしていることなどを条件に当院での抗生剤点滴加療と内服加療で経過をみる事になりました。


【超音波所見】
右腎中央部に楔状の低エコー領域が認められています。AFBN(acute focal bacterial nephritis)の所見です。

翌日にも受診して頂き、体調面ではだいぶ楽になっている事、緊急採血にてWBC19070↓ CRP14.92↑と依然高値ではあるものの、抗生剤の感受性はありと判断し、入院はせずに通院加療の方針を継続しました。1週間後再診された際には、当院受診後3日目から弛張熱のピークは38℃を下回るようになり、その後36℃台をキープできるようになったとの事。尿所見もclearとなり、受診後1週間で急性局所性細菌性腎炎は完治しました。ちなみに起炎菌はE.coli.(大腸菌)で、抗生剤の感受性テストの結果も、点滴加療に使用した抗生剤と内服加療に使用した抗生剤のいずれも間違いない結果でした。
急性局所性細菌性腎炎ってなーに?と思われる方々が大多数であるかと思いますが、通常の急性腎盂腎炎と腎膿瘍の中間に位置する病態と定義付けられています。急性腎盂腎炎は尿路から腎盂へ細菌が移行して発熱する病態ですが、初期段階の感染で、腎盂への細菌の移行がまだ浅い段階ですので、炎症反応もWBCは1万台、CRPも1ケタ程度の数値で納まる事が多く、点滴加療までしなくとも抗生剤の内服加療と安静、飲水摂取励行でほぼ完治が可能な範疇です。また、腎膿瘍まで進んでしまうと、腎盂から腎実質まで細菌が及び、腎実質が膿と化(液状化)してしまうため、抗生剤の移行も充分に行き渡りづらくなることから、抗生剤の効果が不十分な場合には、膿瘍を穿刺しドレナージ(膿の排出)まで行わないと敗血症への移行も懸念される状態です。よって、今回も採血データで改善が無い場合には、腎膿瘍への移行も懸念し、CT撮影(造影あり)を行い、緊急入院も視野に入れながらの通院加療でした。今回の急性局所性細菌性腎炎は患者さんの年齢、体力、経口摂取量、社会的背景を充分考慮した上での外来通院加療にて何とか治癒できた症例でした。
今後も、同様の症例と遭遇する事はあっても外来通院加療とは決めつけずに、入院加療を前提とした上で敗血症への移行は絶対に阻止しなければならず、慎重に診療していかなければならないと肝に銘じる教訓となりました。