精索静脈瘤 精索静脈瘤

疾患から探す
DISEASE

精索静脈瘤

精索静脈瘤の症状

  • 下腹部の鈍い違和感
  • 精巣の痛み
  • など

精索静脈瘤は、急に強い痛みが出る病気ではありません。多くの人が最初に感じるのは、「重だるさ」や「下腹部の鈍い違和感」です。とくに立ちっぱなしの仕事をしていると夕方にかけて症状が強まり、横になると自然と軽くなるという特徴があります。

また、見た目に変化が出る人もいます。陰嚢をそっと触れてみると、まるで細いゴム管がまとまっているような感触があり、これが静脈が膨らんだ状態を表しています。

さらに重要なのは、精巣の温度上昇です。精子は体温よりも少し低い環境で作られるため、温度が上がると精子の造精機能に影響が出る可能性があります。

精索静脈瘤とは

精索静脈瘤とは、男性の陰嚢の中にある精巣の周囲で静脈がこぶのように膨らみ、血液が滞ってしまう病気です。静脈瘤というと脚にできるものを思い浮かべる方が多いですが、同じような現象が精巣の周囲でも起こりうることは、まだあまり知られていません。

この病気は決して珍しいものではなく、成人男性の約15%、そして不妊で受診する男性の約40%に見られるとも言われています。つまり、身近な病気であるにもかかわらず、痛みが軽いことから放置されるケースも多く、気づかないうちに生殖機能に影響を及ぼす可能性がある点が重要です。

精索静脈瘤を理解するうえで欠かせないのは、精巣の周囲を走る静脈がどのように働いているかという点です。精巣は常に新しい精子を作り続けていますが、そのためには血液の循環が欠かせません。動脈から酸素と栄養を受け、静脈を通して二酸化炭素や老廃物、熱が体の内側へ戻っていきます。

静脈には血液が逆流しないように「弁」が備わっています。しかし、これがうまく働かなくなると血液が逆流し、静脈が徐々に膨らみます。この膨らんだ状態こそが精索静脈瘤であり、見た目や触った感触に変化が現れることがあります。

精索静脈瘤が起きる原因

精索静脈瘤がなぜ起こるのかという疑問に対して、多くの専門家が指摘するのが「血管の構造上の特徴」です。特に左側に多く発生するのは、左の精巣静脈が左腎臓から出てくる左腎静脈にほぼ直角(または鈍角)に合流しているため、血液が逆流しやすい構造になっているからだとされています。右側の精巣静脈は、下大静脈に直接流入するため、入射角が左に比べて鋭角になるため、逆流が起こりにくいとされています。右側に静脈瘤がある場合には、腹腔内に悪性腫瘍やリンパ節転移などの閉塞機転がないか精査が必要になります。

また、静脈の弁が生まれつき弱い人もいます。これは遺伝的な特徴と関連している可能性が指摘されており、家族に同じような症状を持つ人がいる場合、軽度の静脈瘤が若い頃から見られることもあります。

精索静脈瘤の診断方法

精索静脈瘤が疑われる場合、多くの人がまず泌尿器科や男性不妊を専門とするクリニックを受診します。診断は思ったよりも複雑ではありませんが、正確に評価するためには複数のステップを丁寧に踏んでいきます。医師が症状の程度や生活習慣、痛みが出るタイミング、立っていると症状が強くなるかなどを、問診で時間をかけて確認します。精索静脈瘤は進行度や逆流の強さによって治療方針が変わるため、患者の訴えを細かく聞くことが非常に重要なのです。

問診が終わると、次に視診と触診が行われます。診察室ではまず立った姿勢で陰嚢を観察し、血管の浮き出し具合や左右差を確認します。続いて医師が軽く触れて、静脈がどの程度膨らんでいるか、指に触れた際にどのような感触があるかを調べます。まるで細いゴム管が集まっている(またはミミズ腫れ)ような感触がある場合、それは典型的な精索静脈瘤の所見です。また、「バルサルバ法」といって、お腹にぐっと力を入れてもらうことで、精巣静脈の怒張がわかることもあります。

触診だけでもある程度の診断は可能ですが、確定には超音波検査(エコー)が欠かせません。エコーは痛みのない検査で、陰嚢にジェルをつけてプローブ(探触子)を当てるだけです。この検査によって静脈の太さ、血液が逆流の程度、血管がどれほど拡張しているかなどを細かく測定できます。

また、より精密に状態を知るために血流測定(カラードップラー法)を併用し、Valsalva法による腹圧をかける事によって、血液の逆流を確認します。これによって「軽度・中等度・高度」といった分類ができ、治療の必要性を判断する大切な指標となります。

また、不妊症の40%に精索静脈瘤が合併しているため、不妊症でお悩みの方、もしくは今後挙児希望のある方には、患者さんの希望により精液検査が行われることがあります。不妊に関する相談で受診した場合は必須といってよい検査で、精索静脈瘤が精子の数や運動率、形態にどのような影響を与えているかが確認できます。治療後の改善度を測るためにも重要な検査です。当院では、即日検査可能な精液検査(インテグラル社製AI男性不妊検査装置:ミニCASA LensHooke X3PRO)も行っています。

lenshookeについてはこちら


■精索静脈瘤と男性不妊の関係
精索静脈瘤が男性不妊と深い関わりを持つ理由は、一言でいえば「精巣にとって理想的な温度環境が損なわれるから」です。精子が健康に作られるためには体温よりも低い環境が必要です。しかし、静脈瘤によって血液が陰嚢に滞ると熱が逃げにくくなり、精巣全体の温度が上がってしまいます。また、精子の造精機能の低下のみならず、精巣そのものが委縮してしまう事もあります。

温度が上昇すると、精子の生産サイクルが乱れます。精子は約 70〜80 日かけて作られるため、影響が出ても気づくのに時間がかかります。精索静脈瘤がある男性では、精子の数が少なくなったり、動きが悪くなったり、形が不安定になる「奇形率」が高くなる傾向があります。また、DNAの損傷が増えるといった研究報告もあり、これは受精後の発育に影響する可能性も示唆されています。

さらに、ホルモン環境にも変化が起こることがあり、精子を作り出す働きそのものが弱まってしまうケースもあります。こうした理由から、世界中の不妊治療ガイドラインでも精索静脈瘤は重要なチェック項目とされ、検査の優先度が高い病気の一つとして扱われています。

手術によって逆流を止めることで、精子の運動率が改善したり、受精率が上昇したりする研究データも多く存在します。すべての人が改善するわけではありませんが、一定の効果が期待できるため、医療現場でも広く治療が推奨される理由となっています。

精索静脈瘤の治療法

精索静脈瘤の治療にはいくつかの選択肢がありますが、症状の程度や年齢、妊娠の希望などによって適切な治療が変わります。まず知っておきたいのは、すべての精索静脈瘤が手術を必要とするわけではないということです。痛みがほとんどなく、精子に問題がない場合は経過観察で十分なこともあります。

本格的な治療として多くの医師が推奨するのが「顕微鏡下精巣静脈結紮術」です。これは小さな切開から顕微鏡を使用して静脈だけを選択的に処理するため、周囲の大切なリンパ管や動脈を傷つけるリスクが低く、再発率も非常に低いことが特徴です。手術は 1 時間ほどで終わることが多く、日帰りが可能な医療機関も増えています。

もう一つの選択肢が「血管内塞栓術」です。こちらは皮膚をほとんど切らず、カテーテルを使って逆流を起こしている静脈を内側から塞いでしまう治療です。身体の負担が少なく、術後すぐに歩けるほど回復が早い点がメリットです。医療機関によって扱っている治療が異なるため、どちらが自分に合っているか相談することが大切です。

■思春期の精索静脈瘤が持つ意味
思春期に発見される精索静脈瘤は、成人とは少し違う扱いが必要です。精巣は成長期に大きく発達するため、この時期に静脈瘤があると発育に差が出る場合があります。左右の精巣の大きさに明らかな違いがある場合や、運動時に痛みが続く場合は治療が検討されます。



■症状を悪化させないための生活習慣と工夫
精索静脈瘤そのものを完全に予防することは難しいですが、悪化を防ぐ方法はいくつかあります。たとえば長時間立ち続ける仕事では休憩をはさむ、デスクワークが多い人は定期的に立ってストレッチをする、といった工夫が役立ちます。また、陰嚢を圧迫するきつい下着よりも通気性のよいものを選ぶと、症状の軽減につながることがあります。



■よくある質問
Q1. 精索静脈瘤は放置するとどうなりますか?
精索静脈瘤を放置しても命に関わるような危険はほとんどありませんが、時間の経過とともに症状が進行する可能性があります。とくに多いのは、陰嚢の重だるさや鈍い痛みが徐々に強くなるケースです。日常生活に支障が出るほどではないにせよ、「夕方になると常に違和感がある」「運動すると必ず痛む」というように、生活の質が低下していくことがあります。

さらに重要なのは、精子の質への影響です。精索静脈瘤は精巣の温度を上昇させるため、精子数が減少したり、運動率が低下したり、精子の形態に異常が増えたりすることがあります。これらの変化はゆっくり進むため自覚しにくいのですが、将来の妊娠を希望する場合には無視できません。したがって、症状が軽くても精液検査などを受け、自分の状態を把握しておくことが大切です。


Q2. 精索静脈瘤の痛みにはどんな特徴がありますか?
痛みの種類は個人によってさまざまですが、典型的なのは「重だるさ」や「鈍い痛み」です。刺すような鋭い痛みではなく、どちらかというと“引っ張られるような”“下に沈むような”感覚と表現されることが多いです。特に長時間立っている仕事をしている場合や、歩き続けて疲れたときに症状が強く現れます。

また、気温が高い夏場や入浴後は血管が膨張しやすいため、痛みが強くなる傾向があります。反対に、横になって休むと静脈の圧が下がるため、自然と症状が軽くなることがよくあります。痛みの強さは日によって波があり、長期間かけて少しずつ悪化することもあります。痛みが仕事や生活を妨げる場合は、医療機関での相談が推奨されます。


Q3. 手術を受けるべきかどうかの判断基準はありますか?
手術が必要かどうかは、症状の強さと、精子の状態、そして将来の妊娠希望の有無をもとに判断されます。一般的に手術が推奨されるのは、(1)痛みが慢性的に続く、(2)精子数や運動率などが明らかに低下している、(3)精巣の大きさに左右差が生じている、などのケースです。

特に男性不妊のケースでは、精索静脈瘤の治療によって精子の状態が改善し、自然妊娠の可能性が高まることも多いため、治療を前向きに検討する価値があります。一方、症状が軽い場合や、妊娠の予定がない人の場合は、経過観察という選択肢も十分に考えられます。医師と相談し、自分のライフプランに合った治療方針を決めることが大切です。


Q4. 手術後、精子の状態はどれくらいで改善しますか?
手術によって逆流が止められても、その効果が精子の状態に現れるまでには時間がかかります。これは精子が新しく作られ成熟するまで約 70〜80 日を要するためです。そのため、改善が見られるのは一般的に術後 3 ヶ月以降で、半年ほど経過するとより明確な変化が見られることがよくあります。

ただし、改善の程度には個人差があります。劇的に数値が向上する人もいれば、ゆるやかな改善にとどまる人もいます。手術によって静脈の逆流が確実に止まっていれば、精巣の環境は確実に良い方向へ向かっているため、焦らず経過を見守ることが大切です。また、術後の精液検査は改善を確認するための重要な指標となります。不妊の原因の40%が精索静脈瘤と言われておりますが、逆に言えば、60%は他因子ということになり、精索静脈瘤の手術をしても造精機能や精子の数、運動率などに改善が見られない事もあります(手術はあくまで診断的治療であるという見方もできます)


Q5. 精索静脈瘤は再発しますか?また、再発した場合どうすればよいですか?
精索静脈瘤は治療後に再発する可能性がありますが、その確率は治療方法によって大きく異なります。顕微鏡を使わない従来の結紮術では再発率がやや高めでしたが、現在主流の「顕微鏡下精巣静脈結紮術」では再発率は非常に低く、1〜3%程度と言われています。一方、血管内塞栓術では血管の状態や個人差により、再発率が少し高くなることもあります。

仮に再発したとしても、治療が完全に無駄になるわけではありません。多くの場合、症状は以前より軽く、精子の状態が一定程度維持されることもあります。再発が疑われる場合は、まずエコー検査を受けて血流の状態を確認し、そのうえで再治療が必要か判断します。治療法の変更や追加治療を選択できることもあるため、落ち着いて医師と相談することが大切です。


文責
すがわら泌尿器科・内科
菅原 草