夜間頻尿とは、就寝してから起床までの間に1回以上排尿のために起きてしまう状態です。夜間頻尿は百害あって一利なし。高齢者の転倒のリスクを上げたり、寿命を短くするとの報告もあります。 夜間頻尿とは、就寝してから起床までの間に1回以上排尿のために起きてしまう状態です。夜間頻尿は百害あって一利なし。高齢者の転倒のリスクを上げたり、寿命を短くするとの報告もあります。

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夜間頻尿について

全身の健康と関わりがある 夜間頻尿は早期の対処が重要

朝までぐっすり眠りたいのに、何度もトイレに行きたくなって目が覚めてしまう、そんな症状に悩んでいる人が増えているという。夜間の排尿が増える「夜間頻尿」は、年齢を重ねるにつれて起こりやすくなる症状だ。睡眠が妨げられると、QOL(クオリティ・オブ・ライフ/生活の質)の低下を招き、心身の疲労をはじめ、ケガや命に関わる事態につながることもあるので注意が必要だ。まずは基本的な知識を得て、思い当たることがあれば専門の医師に相談するようにしたい。そこで今回は、泌尿器科を中心として全身的な医療を実践する「すがわら泌尿器科・内科」の菅原草院長に、夜間頻尿の原因や治療について話を聞いた。

 

夜間頻尿の改善には、的確な診断と全身的な視点での治療が大切

Q:夜間頻尿とはどのような症状ですか?

A:国際的な定義では、夜間(睡眠時)に1回以上、トイレのために目を覚ます症状を夜間頻尿といいます。ただし、1回程度であれば不自由を感じないという人も多いことから、実際には、夜間2回以上の排尿があり、日常生活に支障を来している状態を治療の対象としています。夜間に何度も目が覚めると、日中、眠気に襲われたり、睡眠を取っても疲れが抜けなかったりするなど、生活の快適度が低下してしまうのです。夜間頻尿は、たびたび強い尿意をもよおす過活動膀胱の症状の一つであり、高齢になるほど起こりやすくなります。男性にも女性にも生じますが、前立腺肥大症に過活動膀胱が伴うこともあり、統計学的には男性のほうが多く見られます。

Q:そのような症状が起こる原因を教えてください。

A:原因は主に3つに分けられます。まずは睡眠障害によるもの。高齢になるほど眠りが浅くなり、睡眠中に尿意を感じやすくなります。2つ目は夜間多尿です。生理的に腎臓機能が衰えることで尿の濃縮力障害を起こし、薄い尿がたくさん産生され、夜間多尿になります。また脳下垂体後葉から分泌される抗利尿ホルモンの分泌量が低下することも夜間多尿の原因です。その他、高血圧症や糖尿病などの内科疾患も夜間の多尿に影響します。そして3つ目の原因は、機能的膀胱容量の減少です。前立腺肥大症や過活動膀胱などの影響で膀胱が機能的に小さくなり、相対的に膀胱容量が低下することで、早く尿意を感じやすくなり夜間頻尿となります。

Q:対処法はありますか?

A:原因の基礎疾患をしっかり治療し、さらに過剰な水分摂取はやめることです。よく「水を飲むと血液がサラサラになる」とか、「就寝中に脱水症状になると脳梗塞や心筋梗塞になりやすい」と言って、寝る前に水分を取る人がいますが、効果に関する医学的根拠はありません。標準的な日本人の体形なら500mlのペットボトルを午前と午後に1本ずつ飲むくらいで十分です。午後の飲水は夕飯前までになるべく済ませ、夕食以降は意識して水分を取らないようにし、最終飲食から就寝まで3時間空けることをめざしてください。理論上原尿は1日150L産生され、その後、尿細管で99%再吸収されますので、実際には1日1.5Lほどの尿量が産生されます。

Q:ペットボトル2本分の補給だけでいいのですか?

A:はい。理論上、体内では1日1.5Lの尿量が産生されます。ではそれを確保するにはどの程度の飲水量が必要か計算すると、まず、3度の食事で約1Lの水分が入るといわれています。食事やそのほかの物質が体内で燃焼することでできる代謝水は1日に約200mlですので合計1200mlの水分が体内に産生されます。そこから、不感蒸泄(目に見えないで損なわれる水分)として、肺の呼吸や皮膚呼吸と、感蒸泄(汗)で1日約700mlの水分が体から出て行きます。そうするとこの時点で1200ml-700ml=500mlが尿量としてカウントされますので、食事以外にあと1000mlの水分を経口摂取すればいいことになるのです。

Q:診断と治療の流れを教えてください。

A:ご記入いただいた質問票を参考にしながら、患者さんの病歴や現在の症状などを細かくお聞きして、原因を突き止め、その方に合う薬を処方します。ただし、薬はあくまで前立腺や膀胱といった下部尿路の症状に作用するものなので、それ以外の所に大元の原因があれば、併せて治していく必要があります。当院では、日本泌尿器科学会泌尿器科専門医の立場から、内科疾患や睡眠障害なども含めて診ていき、水分摂取や生活習慣の改善点などを指導しています。また、夜間の頻尿で相談に来た方が、実は膀胱がんや膀胱結石などの器質的な要因を抱えていたというケースもありますので、必要に応じて超音波検査を行うなど、精度の高い診断をめざしています。

 

ドクターからのメッセージ

菅原 草院長

夜間に目が覚めることは全身の健康に良くない影響を与えると考えられています。夜2回起きる人よりも、3回以上起きる人のほうが死亡率が高いというデータもありますし、暗い室内を歩くと転倒による大腿骨頸部骨折や脳挫傷などの原因にもなりますので、夜間頻尿は百害あって一利なしです。基礎疾患や生活習慣などさまざまな原因がありますが、適切な診断と薬物療法、生活習慣の改善によってかなり改善が期待できる疾患でもあります。そういった意味で、生活習慣病と排尿障害の両方を診てくれる泌尿器科の受診をお勧めします。一般的に泌尿器科は「行きづらい」と思われがちですが、当院には女性の患者さんも多いのでお気軽にご相談ください。