診療ブログ
BLOG

新幹線内でのドクターコール


【大阪万博夢州駅出口付近】

先日週末に、大阪万博を見に行こうと新幹線に乗りました。1時間ほど経過したところで、”お客様が気分を悪くされております。”お医者様がいらっしゃいましたら、〇号車までお越しください”とアナウンスがありました。
こんな時、よほど救急の現場で普段から初療で見慣れているDrならまだしも、しかも病院内ではなく走行中の新幹線の車内での救急対応。”いやー、医者なんだから当然診れるんだよね?”って簡単におっしゃられる方々がいますけど、そんなに甘くないんですよ、現実は。自分の専門とする診療科にもよりますし、9割方のDrがその場に居合わせていても、積極的に名乗って診に行ける人っていないと思いますけどね。
そんな私も情けないですが、その中の一人でして、誰かが行ってくれるだろうと静観していましたが、またすぐに、先程のドクターコールが車内に響きます。一緒にいた家族から、”ほら、パパ、行って来て!!”と尻を叩かれる始末。”君たち、この状況で診察って、そう簡単に言いなさんな、、”とは言ったものの、傍観しているわけにはいかず、誰も手を挙げないなら行くしかないと、患者さんのもとへ向かいました。


【いやー、めちゃめちゃ暑かった・・・万博会場】

救護室の様なところにうつぶせに横たわっていたのは、20代後半から30代前半ぐらいの男性。BMI25-30くらいのややfattyな体形。”大丈夫ですか?お名前は言えますか?持病は何かありますか?”と肩をトントンと叩きながら呼びかけするも、”うーん、うーん”としか返答がありません。vital signを確認すべく、患者さんの右手首の橈骨動脈を触診したところ、しっかりとした脈圧で触れており、少なくとも血圧は収縮期血圧80以上があることを示しており、脈拍数も15秒で19回、よって76beats/min(1分間で76回)、不整なしでした。その後、パルスオキシメーターがあったので、右第2指(人差し指)に装着したところ、SpO2 97%(pulse78回)と呼吸状態は良好。血圧計もあったんですが、電池の状態が良くなく、血圧は測れませんでした。一緒の同乗者も居らず、会話も成立せず。ショック状態ではないですが、この現状では意識障害であり、JCS(Japan Coma Scale)でⅡ-20:体をうつぶせの状態から左側臥位にしたところ、うっすらと開眼したため。GCS(Glasgow Coma Scale)ではE(眼)2(痛みにより開眼)V(言葉)2(理解不能な声)M(動作)5(痛みの部位へ手が行く)と診断しました。また、確かな情報もなく、緊急性の有無もはっきりとした根拠をもった判断はできかねます。車掌さんからは”名古屋まであと20分はかかります”と報告を受けたため、”申し訳ないですが、この状態ではこれ以上の精査や診断、加療は厳しい。名古屋駅で救急車を待機させるようお願いします”と私から車掌さんにお伝えし、”はい、そのようにいたします”と返答がなされた瞬間、???”あ、新大阪でおりまーす!!”と先程までうんともすんともしなかった患者さんがムクっと起き出して、目がうつろな状態で言ってきました。”おいおい、なんでこっちの呼びかけにはなんも返答しなかったんだよー!”と心の中ではムカッときていましたが、再度いろいろ聞いてみたところ、かなり車内で飲酒をしていたらしく、いわゆる酩酊状態であったことが判明しました。でも、一歩間違えれば急性アルコール中毒で危ない状況下に置かれる可能性もあるわけで、その後も病歴聴取や、今回の経緯を色々聴取し、受け答えも何とか出来ていたため、救護室で新大阪まで経過観察してもらい、変化があれが車掌さんに伝えてもらう事で一旦その場を離れました。
その後、車掌さんが何度も患者さんの状態を伝えに私の席までくるたんびに、”今のところ、徐々に気分は回復してきているようです。本当にお世話になりました。助かりました。”と感謝の言葉を頂きました。その車掌さんは、実はお父さんが新幹線の元運転士さんで、ご自身も今回は車掌として乗務しているが、普段は運転士として勤務されているそうでした。引退したお父さんのネームプレートを制服に付けているのを誇らしげに見せてくれたので、”親子2代、父親を尊敬している息子さんなんですね?”と言ったら、”まあ、、、”と照れていました。
そして、”JRの方から謝礼をしたいので、お名前と住所を教えてください”と言われたものの、ほんとこちらとしては、何にもしていないので”いえいえ、大したことはしておりませんので、いいです”と断ったんですが、”いえ、そういうわけにはいきませんので”と結局名前と住所を伝えることになりました。そしたら子供が、”あ、さっきも聞かれたので、もう書いて他の社員さんに渡しちゃったよ”とのこと。実は私の対応を同乗していた子供が現場を見に来ていたらしく、普段は家でぐーたらしているところしか見ていない私がちゃんと対応できるのか?と疑っていた様です。その場に居合わせた子供からの評価は??さてさて??


【JR東海さん、ありがたいです。飛行機より新幹線好きの私にはほんとうれしい贈り物です。もったいなくて使えませんね、】

いやー、ほんと、医者でありながら、病院やクリニックという医療の現場(箱物の中)での医療機器やマンパワーがあればこそ普段できる医療行為でも、いざ、外で白衣を着ていない何もない現場では自分一人ではなんにも出来ない無力さを感じさせられた出来事でした。(ほんと情けないですがこれが現実です。)
無事、新大阪駅に着いてホームを歩いていると、先程の患者さんがリュックを背負って前方にいました。後ろから、”もう体調は大丈夫?もう飲みすぎない方がいいよ!”と声をかけると、きょとんとした顔で”ん?あ、さっきは、ご迷惑をおかけしました!ありがとうございました!”とまだ目はうつろでしたが、体調は回復傾向にある様でした。
みなさんも、くれぐれもお酒の飲みすぎには、ほんと注意しましょうね!
で、後日、JR東海が印字されたボールペンが自宅に送られてきました。名前と住所を確認するのって、もちろん謝礼を渡したいという事以外に、ほんとにこいつは医者なのか?なりすましとかではないのか?を検索し、確認するためのものでもありますよね?きっと、、、。何せ、こっちは短パンとTシャツでしたからね・・・。



【日本の企業はすごいですね、こんな感謝状まで書いてくれるなんて・・・。かえって申し訳ないです・・・】