先日40歳台の男性が、前日からズキズキする下腹部痛と排尿時痛を主訴に当院受診されました。夜間も腹痛で眠れなかったとの事。理学的所見上では上腹部は触診上異常なし。下腹部を触診していると右下腹部に圧痛を認めており、以前のブログで紹介した膿瘍形成性虫垂炎の時とおんなじMc burneyの圧痛点に圧痛を認めました。となると鑑別診断としては急性虫垂炎が上位に上がってきます。

【おさらい:急性虫垂炎の理学的所見】
しかし今回は排尿時痛を認めたため、泌尿器科を検索し当院に受診されたようですから、急性細菌性前立腺炎や下部尿管結石、特に膀胱尿管移行部結石の場合には、下部尿路症状(終末時排尿時痛や下腹部痛)も伴なうため、まずは下部尿路症状がメインと考え尿路検索として尿路エコーを施行しました。
両側腎に尿管結石に特徴的な水腎症や腎盂拡張は認められず。膀胱内および膀胱尿管移行部に結石や腫瘍性病変は認めず。前立腺はサイズが21.54ml(正常<20ml)とやや腫大している印象でしたが、尿沈渣上はRBC0-1/hpf、WBC0-1/hpfと尿路感染をみとめず。

【膀胱および前立腺エコー:膀胱および膀胱鏡尿管移行部に結石(-)、前立腺軽度腫大(+):正常<20ml
急性虫垂炎の症状として食欲の有無はkey wordとされているので聞いてみると、”食欲はないので食べなきゃいけないと思って食べています”との事。となると消化器症状を認めていることになりますから、前立腺炎より急性虫垂炎や、大腸憩室炎の方が鑑別診断の上位に挙がってきます。
その後右下腹部の辺りにエコーを当ててみると、先日診た膿瘍形成性虫垂炎ほどはっきりした所見ではなかったものの、虫垂と思われる部位がやや腫大しているように見えたため、緊急採血と立位腹部レントゲン検査を施行してみました。

【Mc burneyの圧痛点付近にエコーを当ててみると、虫垂と思われる部位がやや腫大しているように見えます】
すると、緊急採血の結果はWBC9080↑(正常値300-9000)CRP1.40↑(正常値<0.3)と軽度炎症反応の上昇あり。また、レントゲン上では二ボー像は無かったものの、小腸ガスがところどころに認められており、腸蠕動が鈍くなるサインが出ていました。

【立位腹部x-p:小腸ガスがところどころに認められています】
排尿時痛という症状が無ければ、ほぼ急性虫垂炎で決まりとなるのですが、急性虫垂炎で排尿時痛は伴いません。たまたま、両疾患が同時に発症しているのか、虫垂の炎症が膀胱まで波及し下部尿路症状が生じているのか(膀胱虫垂瘻でも無い限りかなり稀)、病態生理の解釈に非常に難渋しました。
炎症反応の値からして、急性虫垂炎、大腸憩室炎、急性前立腺炎のいずれであったとしても、抗生剤投与による保存的加療で経過を診れる範疇で、少なくとも緊急性はない状態かなと思っておりました。
抗生剤服用で経過を診て行こうか?いや、しかし、万が一に急性虫垂炎であった場合に一旦炎症が沈静化したとしても、前回の膿瘍形成性虫垂炎の様に過去に虫垂炎を発症しては保存的加療で繰り返し治療した場合には再発する恐れがあり、結果重症化したり手術となった際に癒着が酷くなり難航したりするのではないか?と一抹の不安がよぎり、患者さんにご足労願い近隣施設で緊急CTを撮影してもらう事としました。すると・・・・・。

【緊急CT冠状断像:右下腹部に腫大した虫垂を認めている】

【緊急CT横断像;右下腹部に腫大した虫垂を認めている】
先ほどエコーで認められた虫垂の腫れた部位がやはりCT上でも同様の所見を認め、急性虫垂炎の診断が返ってきました。その後、患者さんには専門家に今後についてしっかりとコンサルトしましょうと説明し、近隣施設の消化器外科に緊急で紹介受診とさせていただきました。
先方からのお返事では、急性虫垂炎の診断は間違いなく、炎症反応の値とPtとご家族の希望からまずは抗生剤投与による保存的加療のために一泊入院となった様ですが、翌日手術希望となり腹腔鏡下虫垂切除術を施行し、合併症なく退院されたとの事でした。
いやー、排尿時痛を伴う急性腹症って、膀胱結腸瘻ぐらいしか思い浮かばなかったので、まさか急性虫垂炎であったとはびっくりでした。
でもカルテを見直してみると、腹痛の初期の発症部位は胃の辺りからで徐々に下腹部に移行してきたと、教科書に載っている急性虫垂炎の定型文がそのまま書かれていましたから、やはり急性虫垂炎で良かったんですね。”排尿時痛”という訴えに翻弄されてしまった今回の症例でしたが、先入観、思い込みでいかようにでも誤った診断へ導かれてしまいかねないひやひやした経験をしました。
いやー、最近話題になっている26年間解決しなかった事件が、担当者が代わって見方を変えたらすぐに解決したっていう話もありますからね。問診の時点でほぼ9割方我々は鑑別診断のなかから答えを見出し、その裏付けとして理学的所見や客観的検査(採血や画像診断)をもって確定診断を得、治療していくのですが、あのまま抗生剤処方で帰宅させていたら・・・・。
一歩間違えたら急性虫垂炎から腹膜炎→敗血症へと最悪の展開になった可能性もあるわけで、ほんと日々の診療は肝を冷やしながらの必死の毎日です、、、、。
それと・・・・。
週末に都内の某ホテルで開催された、母校昭和医科大学病院主催のクリニカルセミナーに参加して来ました。
病院長から昨今の医療情勢の厳しい状況などが語られ、また大腸癌や脳神経外科領域のトピックについて各診療科の代表者から講演を聞かせて頂き、大変勉強になりました。
そして、懇親会では・・・・。その場に居合わせた同期たちとお酒を酌み交わしながら、楽しく談笑させていただきました。


【同期たちと:私以外みな教授、准教授ほか大学関係者ならびに関連病院に勤務されている方々です。一緒に肩を並べて写真に納まるなんておこがましい限りです・・・。】
そしてそして、今夜は・・・・。
キックボクシング界からボクシング界へ殴り込みをかけた那須川天心選手が、あのモンスター井上尚弥選手の実弟拓真選手とのWBC世界バンタム級王座決定戦が行われますよね??武尊選手とのTHE MATCH以来の世紀の一戦と私は勝手に思っています。今から非常に楽しみですね。私の勝手な予想ですが、那須川天心選手が井上拓真選手の左フックを交わしてカウンターの左フック(もしくはストレート)でダウンを奪い、KOまたは判定で勝利すると思いますが、みなさんはいかがでしょうか?