先日20代の女性が1週間前から排尿時にいきんで出すようになったとの事で当院受診されました。排尿時の疼痛はなく、尿勢が弱く思うように排尿できない状況でした。
初診時理学的所見上では下腹部の膨満を認め、下腹部をおした際に圧痛はないものの尿意が亢進するとの事でした。
尿路エコー上左腎水腎症(-)、右腎水腎症(-)、膀胱内SOL(-)も尿の貯留を認めておりました。

【超音波像:膀胱内に尿が貯留しています。膀胱内には器質的な要因は認められませんでした】
その後、排尿の機能を評価したところ、尿流量測定にて排尿量(UV)0ml、最大尿流量(peak flow)0.0ml/sec、残尿測定218mlと全く自排尿なく、膀胱内に200ml超の尿の貯留が認められました。いわゆる尿閉の状態です。現病歴を詳しく聞くと、10日以上前に外陰部の痛みでレディースクリニックを受診したところ、性器ヘルペスの診断にて、抗ウイルス薬を処方され当院受診前日に治癒判定をされたとの事。また、STI(性行為感染症)であるウレアプラズマの陽性も判明し、抗生剤を処方されて現在内服中との事でした。
経過からして恐らく性器ヘルペスは今回が初感染であったと考えられます。性器ヘルペスが骨盤神経である仙髄のS2-S4領域を感染によって炎症をきたしたことで、本来なら排尿の際に中枢からの排尿命令によって副交感神経が興奮し、アセチルコリンが放出されて排尿筋(膀胱内平滑筋)のムスカリン受容体を刺激して排尿筋が収縮し、内尿道括約筋(平滑筋)と外尿道括約筋(横紋筋)は弛緩されて排尿が成立するはずが、今回はその排尿命令がうまく伝達できなくなり、自分の意思では排尿が出来なくなってしまったんです。すでに、抗ウイルス薬を飲み切り、外観上は治癒されたと判断されていたようですが、体内の末梢神経の炎症による神経伝達機能はまだ回復できていない状況でした。
すぐにCIC:Clean Intermittent Catheterization(清潔間欠的自己導尿)を患者さんに指導し、ご自宅で自排尿できない場合に膀胱内の尿を体外に排出させることとしました。また、自排尿を促し、早く機能が元通り回復する様内服薬として、アセチルコリンエステラーゼ阻害剤(排尿筋の収縮を促す)とα-1遮断薬(内尿道括約筋の弛緩を促す)を併用することとしました。
2週間後に来院された際の尿流量測定では、UV410.0ml、peak flow39.1ml/sec、残尿測定21mlと完全完解をきたしておりました。

【再診時の尿流量測定(ウロフローメトリー)の結果:単位時間当たりの最大流速がとても速いです。通常女性では20ml/secが基準となっています。】
患者さん曰く、当院受診後3日目くらいから自排尿が認められ、自己導尿もなしで問題なく過ごせるようになったとの事でした。
今回の様に骨盤神経や陰部神経などにヘルペスウイルスが感染を起こし、排尿障害を起こす現象を”Elsberg症候群”といわれています。今回は単純ヘルペス2型が原因と判断しましたが、帯状疱疹でも同様のことが起こっているとの報告も散見されました。ヘルペス族ならどのタイプでも起こしうる様ですので、実は大半の方がすでに不顕性感染しており、抵抗力の低下や紫外線の暴露などでも再発する病気ですから、誰にでも起こりえる疾患です。

【女性の性器ヘルペスの実際:陰唇に多数の粘膜びらんと一部潰瘍が認められています。:性感染症診療マニュアルより抜粋】
ヘルペスウイルス感染から、排尿機能に影響が出て尿閉にまで至る事があるんだと今回を機にみなさんも知っておくと、同様の事態が生じてもあわてなくて済みますね?
ちなみに自然治癒で2-3週間、抗ウイルス薬投与で約1週間で治癒するそうですが、実際にはそんなに待てないでしょうから、早めにお近くの泌尿器科を受診してくださいね!