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膀胱結腸瘻

先日、2週間前から夜間頻尿5回、尿意切迫感が出現しているとの事で当院に来院された60歳代の男性。既往に便秘症あり。他院消化器内科で緩下剤を処方されており今回の件を相談したところ、タムスロシン(α-1受容体拮抗薬)を処方されるも効果なし。初診時は緩下剤の影響か、下痢もあるとの事でした。尿沈渣上赤血球10-20/hpf、白血球30-50/hpfと尿路感染あり。理学的所見上腹部弾性軟、圧痛なし。尿路エコー上左腎異常なし、右腎嚢胞(+)、膀胱内には尿の貯留なくpoor study、前立腺も計測できず。経過からして、急性細菌性前立腺炎と診断し、緩下剤の中止を指示し、抗生剤と生薬、整腸剤を処方。また尿培養検査では、大腸菌と連鎖球菌が検出されました。1か月後の再診時に行った尿流量測定ではUV142.7ml、peak flow16.2ml/sec、残尿測定127mlと残尿は多かったものの、尿勢は良好、夜間頻尿は5回から3回に減少し、下痢も止まったとの事でしたが、今度は排尿時にブクブクと空気が一緒に出てくるようになったと初診時にはなかった訴えあり。尿と一緒に空気が?というフレーズはいわゆる気尿というワードを指しており、すぐに膀胱結腸瘻を連想させます。原因としては大腸憩室炎や虫垂炎、大腸がんや、大腸内視鏡時のポリープ摘除によるマイナー穿孔(いわゆる医原性)などがあげられますが、病歴を聴取したところ、今年秋ごろに腹痛で精査した際にCT上大腸憩室炎を指摘されていたとのこと。また、ここ1か月以内に大腸内視鏡を施行したとのことで、その際にポリープを2個摘除したらしいですが、気尿はその前から出ているとの事でした。時系列からすると、微妙ではありますが、医原性ではなく、ベースにある大腸憩室炎による穿孔かなあという印象でした。


確定診断には膀胱鏡とCT検査になるため、翌日に膀胱鏡を施行したところ、膀胱内は糞尿による浮遊物で視界不良でした。生食による洗浄、吸引を行いながら視野を確保して膀胱内を観察していくと、膀胱後壁を主体に粘膜がびまん性に浮腫状に変性しており、瘻孔と思われる部位から噴出する糞便を確認しました。


また翌々日には造影CTを施行し、S状結腸憩室炎の存在と、膀胱後壁との癒着部位が確認され、S状結腸膀胱瘻と確定診断がなされました。すぐに近隣施設へご紹介させていただき、後日膀胱部分切除およびS状結腸切除術が行われることとなりました。幸い悪性腫瘍の浸潤ではないため、再発のリスクは低く、回復も早いものと推測されます。今回の様に下部尿路症状(LUTS;Lower Urinary Tract Symptom)を主体とする排尿障害では、いわゆる前立腺肥大症や過活動膀胱、急性膀胱炎、急性前立腺炎がまず第一に鑑別診断として挙げられますが、今回の様に炎症の原因が尿路以外をメインとすることも稀にあるため、薬を処方して終わりではなく、鑑別診断をフル動員して原因精査を行って早期診断につなげていくことが大事であると痛感しました。今回も初診時に糞尿や気尿という訴えがなかったことから、診断に至るまでに1か月以上かかってしまったことに反省しているところでございます。