転移性膀胱腫瘍、胃MALTリンパ腫について、原因、検査、治療方針などを文献的考察を交えてお伝えしております。 転移性膀胱腫瘍、胃MALTリンパ腫について、原因、検査、治療方針などを文献的考察を交えてお伝えしております。

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転移性膀胱腫瘍

先日、50台の女性が10日前から尿が少し泡立っている、尿が出にくくなることがある、残尿感もあるとの訴えあり当院受診されました。
尿意の切迫感や、切迫性尿失禁も認められるとの事から、過活動膀胱が鑑別診断として上位に挙げられますが、10日前からの発症となると、急性期の病態ですから急性膀胱炎も鑑別診断として挙げられます。尿沈渣上赤血球5-9/hpf、白血球0-1/hpfと顕微鏡的血尿のみで、尿路感染はなかったため、急性膀胱炎は否定的。となると、膀胱癌や膀胱上皮内癌、膀胱結石などの器質的な要因を念頭に精査してかなければなりません。
そこで、まず画像診断の入りとして尿路エコーを行ったところ、両側腎異常なしも膀胱後壁から左側壁にかけて膀胱壁の肥厚像と子宮の腫大(筋腫?内膜症?)が認められました。


膀胱エコー像:膀胱左側壁から、子宮に隣接する膀胱後壁に膀胱壁の肥厚像が認められます。

同日の尿細胞診classⅡ(炎症性変化)と悪性像なし。
そして、後日行われた膀胱鏡の所見はというと??


膀胱鏡画像:典型的な膀胱癌に特徴的な乳頭状腫瘍ではなく、膀胱異所性子宮内膜症に見られたブルーベリースポット様の所見が散在。

御覧の通り、以前ご紹介させていただいた膀胱異所性子宮内膜症の特徴的な所見である、ブルーベリースポットに類似した膀胱粘膜の所見が認められました。
さらに、造影CTでも子宮と膀胱との関連性、多臓器への浸潤やリンパ節などの遠隔転移等も含めて精査したところ、エコー上見られた造影効果のある膀胱壁の肥厚像と、子宮の腫大が認められており、子宮と腫瘍との連続性もある様に見られたため、私的見解としては臨床的に膀胱異所性子宮内膜症と判断しておりました。


造影CT骨盤内矢状断像です:膀胱後壁に造影効果のある肥厚像と腫大した子宮との連続性があるように見えます。

以前と同様に泌尿器科へ依頼し、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TUR-Bt)を施行して、組織診断をしたのち、婦人科コンサルトという流れになるかと思っていましたが、実はこの方の既往歴に胃MALTリンパ腫の既往あり、放射線治療後再発なく経過しているとのことでしたので、follow中の施設の泌尿器科へ紹介としました。
膀胱異所性子宮内膜症で決まりと思っていた私でしたが、後日帰ってきた返信では、病理診断の結果、胃MALTリンパ腫の膀胱内再発とのことでした。
文献的にも、転移性膀胱腫瘍は比較的稀な疾患であると言われていて、全膀胱腫瘍の2%と報告されております。転移経路としては一般的に周囲臓器からの直接浸潤や、腹膜播種、リンパ行性転移や血行性転移などがありますが、さらに今回の様な腹膜外臓器である膀胱と、腹腔内臓器である胃とは位置関係からしてもかなり離れており、遠隔転移は非常に稀であると考えられました。ある文献からの引用ですが、Batesらの転移性膀胱腫瘍282例の報告では、原発巣として大腸(21%)、前立腺(19%)、結腸(12%)、子宮頸部(11%)で、これらのほとんどが骨盤内臓器であるため、胃と違って転移経路は膀胱への直接浸潤です。遠隔臓器からの膀胱転移の原発巣としては、胃(4.3%)、皮膚(3.9%)、肺(2.8%)、乳腺(2.5%)と報告されております。本邦での転移性膀胱腫瘍69例の集計では原発巣として胃癌が最も多く41例であったとの報告もあります。本邦で原発巣として最も胃がんが多いのは日本人の胃がんの発生率が高いことも要因として考えられるとも言われております。胃原発の悪性腫瘍のうち、90%以上は胃がんが占めており、悪性リンパ腫はほんの数%しか占めておらず、比較的稀であると言われています。
今回、すでに4年前に胃原発のMALTリンパ腫が放射線照射によって治癒し、再発なくfollowされていた中、排尿障害を契機に膀胱内再発で遠隔転移が発覚した貴重な症例を経験をしましたので、ご紹介しました。
てっきり、膀胱鏡上では、膀胱異所性子宮内膜症で間違いないと確信していたんですが・・・・。
いやーまさに”臨床は教科書より奇なり”、ですね。