膵臓癌は健診でも見つかりにくく、進行するまで自覚症状が無いのが特徴で、今回の様に肝臓などの多臓器への遠隔転移が発覚してから原発巣である膵癌が発覚するケースもめずらしくありません。 膵臓癌は健診でも見つかりにくく、進行するまで自覚症状が無いのが特徴で、今回の様に肝臓などの多臓器への遠隔転移が発覚してから原発巣である膵癌が発覚するケースもめずらしくありません。

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膵癌多発肝転移

先日、50歳代の男性が1週間前から飲水すると心窩部痛があるとのことで当院受診されました。年末年始に暴飲暴食をしたので、そのせいかと思っているが年明けから食欲も落ちてきているとの事でした。健診は受けてはいるものの、血液検査のみで、画像診断他、内視鏡検査等も行っていないとの事。
初診時理学的所見上、腹部に圧痛や筋性防御は見られず。左右側腹部の叩打痛も認められず。数年前に右尿管結石の疝痛発作で当院受診歴あり。その際、右尿管結石ははすでに自然排石はしたものの、CT上両側に多発腎結石を認めていたので、左右どちらかの尿管内に結石が下降して、その痛みから誘発された消化器症状ではないか?と始めそう思いながら超音波検査を施行しました。まずは、両側腎を見てみましたが、確かに結石と考えられる高照度エコー領域は認められるものの、左右共に腎盂拡張や水腎症は認められておらず。膀胱内および膀胱近傍にも結石の所見は認められず、尿路由来の疼痛とは言い難いなあ、と見ていました。では、実際に痛がっている心窩部にエコーを当ててみよう(ただ、食事はしてきており、ガスが多く見づらいだろうなあ、、、)ということで見てみたところ、膵臓は残念ながら頭部から体部までは追えましたがハッキリとした所見はなく、私のエコー技術では尾部までは追えませんでした。その後、肝臓全体をくまなく観察するといたるところに中心部分が高照度で辺縁が低照度エコー領域となっている、いわゆるbull’s eye sign(的の様な形を呈している)が認められておりました。また、肝辺縁はところどころ不整であり、やはり普段見ている肝臓のエコー所見とは大きく異なっておりました。


肋間を通して肝右葉を見ている像:多発するbull’s eye sign


大動脈のレベルの矢状断で肝左葉を見ている像:肝辺縁が不整です。bull’s eye signも見られています。

この所見は、多発肝転移を示唆する所見であり、肝原発の肝細胞癌ではなく、他臓器からの遠隔転移像と解釈します。前述から、過去に当院での尿路結石以外に既往歴はなく、また、数年前に撮影していた単純CT画像を見返しましたが、両側腎結石しか所見は無く、肝臓ほか他臓器に異常所見は認められておりませんでした。痛みに対して、胃酸を抑えるPPIとアセトアミノフェンを処方しつつ、早急なる原発巣および肝内の状況を把握すべく、近隣施設に緊急扱いで造影CTを施行してもらいました。すると、、、。


腹部造影CT横断像:多発する肝内SOL(多発肝転移巣)と膵尾部に存在する膵癌原発巣

肝内にはエコーで認められたbull’s eye signは造影CT上low density area(低密度領域)として多発性に存在しており、肝心の原発巣はというと、、、、私のエコー技術ではとらえ切れなかった膵尾部に腫瘤形成を示しており、原発巣は膵癌と判明しました。食後1時間後や、空腹時にも刺し込むような痛みが出ているとの事でしたが、放射線科の読影上では画像上因果関係ははっきりしないとのことでした。私的見解としては冠状断像で胃の後壁と膵癌の腫瘤とが接しており、もしかしたら一部胃壁への浸潤も認められているのではないか?と考えられました。


腹部造影CT冠状断像:胃後壁に接する膵癌腫瘤性病変 これが胃壁への浸潤となると今回の主訴の原因となりえます。


数年前の腹部単純CT横断像:両側腎結石を認めている以外に膵臓に腫瘤性病変は認めておらず。

現時点では膵癌の病期としては、stageⅣ(他臓器転移あり)となるため、治療法としては、化学療法または化学療法と放射線照射の併用などがあります。すぐさま、近隣施設へご紹介させていただき、今後の集学的治療法が奏功し、体調が回復されることを願っております。