腎癌は早期の段階では自覚症状の出ない事が多く、進行してから見つかるケースも少なくありません。昨今は健診での超音波や、他疾患の精査中にCTで偶発的にみつかる発見されるケースが多くなってきています。 腎癌は早期の段階では自覚症状の出ない事が多く、進行してから見つかるケースも少なくありません。昨今は健診での超音波や、他疾患の精査中にCTで偶発的にみつかる発見されるケースが多くなってきています。

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腎癌

先日、数日前より肉眼的血尿が出現したとの事で70歳台の男性が来院されました。血尿は出たり、出なかったりと間欠的なもので、実は1年ほど前にも同様の症状があったが2-3日で消退したのでそのまま様子を見たとの事でした。既往に心房細動があり、抗凝固薬DOACを内服しており、出血はしやすい状況下ではありました。
初診時尿沈渣上赤血球多数/hpf、白血球0-1/hpfと間違いなく顕微鏡レベルでも血尿が認められておりました。尿路エコー上左腎は異常なしも、右腎には9.70×7.13cm大の腫瘤性病変を認め、カラードップラーエコーにてhypervascularity(血流増加)の像を呈しておりました。膀胱内は占拠性病変なし。前立腺体積18.23mlと正常大でした。


右腎に9.70×7.13cm大の腫瘤性病変を認め、カラードップラーエコーにてhypervascularity(血流増加)の像を呈しており、腎癌の様相を示しておりました。

エコー上は右腎癌と考えられましたが、肉眼的血尿の原因となると通常尿路内に発生する尿路上皮癌が鑑別診断の上位に挙がります。腎癌は腎実質から発生する癌種であるため、初期の段階では肉眼的血尿を来たすことは稀で、腎実質から尿路内である腎盂まで浸潤しないと肉眼的血尿とはなりません。大きさもT分類でいうところのT2a(腫瘍径7~10cm未満)と大きく、肺やリンパ節などへの遠隔転移も視野に入れて造影CTを施行しました。


右腎には腎癌と考えられる造影効果のある巨大な腫瘤性病変を認め、腎実質から腎盂内へ浸潤しているのが把握できます。肉眼的血尿の原因として、矛盾しない像です。

すると、、、CT画像のごとく、腎実質から発生した腎細胞癌は腎実質のみにとどまらず、やはり腎盂内まで浸潤しておりました。幸いGerota筋膜は越えず、周囲脂肪組織までにとどまっているように見え、また肺野や所属リンパ節への転移等は画像上認められなかったため、臨床診断はcT3aN0M0(StageⅢ)となります。一般的には局所進行癌(T3a以上)は根治的腎摘除術が選択されますので、早急に近隣施設へご紹介させていただきました。ちなみに肉眼的血尿の原因となる尿路上皮癌でもっとも好発部位は膀胱ですので、しっかり膀胱内も内視鏡で確認しましたが、腫瘍性病変は認められず、また尿細胞診classⅡと尿路上皮癌は否定されました。かかりつけ医で、以前から貧血を指摘されていた様で、直近のHb9.1g/mlとかなり低値でした。消化管精査で胃と大腸内視鏡検査をしても異常なかったとのことでしたが、せめて全身評価でCT撮影も行っていれば、もう少し早い段階で診断がついたのに、、、と悔やまれまれてなりません。
また、別の日には検診エコーで右腎に1.7×1.1cm大の小腎腫瘤性病変を認めたとの事で当院受診された30歳台の男性。全く自覚症状はないとのこと。当院で行ったエコー上では右腎にベルタン柱(一見腫瘤性病変様に見える問題ないエコー所見)のみで、検診で指摘された腫瘤性病変は見当たりませんでした。


当院での右腎エコー像:私のエコーの技量では、ベルタン柱と呼ばれる一見腫瘤様に見える正常な超音波像としてしかとらえられませんでした、、、。

ただ、小径腎癌の場合はエコー検査の力量の差で見落としてしまう可能性もあり、ここは過信してはいけないと判断し、まずは単純CTで確認したところ、やはり右腎背側のエコーでは見落とされやすい部位に小さな腫瘤性病変が認められました。(危なかったです、、、。自分のエコーの技量はまだまだです、、、。)
追加で造影CTを施行したところ、腫瘤性病変内部に造影効果のある占拠性病変が認められ、小径腎癌と判断し、近隣施設へご紹介させていただきました。大きさが4cm未満であるため、T分類ではT1aとなり早期癌で転移は認めていないため、ロボット支援下での腎部分切除を行うことになったようです。なるべく悪い部分のみ取り切り、臓器は温存したほうが慢性腎臓病への移行を回避し、生命予後の延長にも貢献できますからね。また、最近の欧米諸国からの報告では、小径腎腫瘤においては20-30%が病理学的に良性であるとされており、そういった意味でも腎部分切除または核出術を行う利点はとても大きいと言えますね。


後日行われた造影CT:右腎背側に位置する長径17mm大の腎腫瘤性病変を認めました。

腎癌の3大兆候は教科書的には肉眼的血尿、腹部腫瘤、腹痛と記載されていますが、これらの兆候はすでに進行癌の兆候であり、初期段階では自覚症状がないのが腎癌の特徴です。近年では健康診断の時点でエコー検査や、他科疾患の精査で行ったCT検査などで偶発的に見つかるケースがほとんどで、今回の2例目の症例の様に長径4cm未満(T1a)の小径腎癌が多く診断されます。
今回の症例はお二方とも幸い術前に遠隔転移が認められていないステージで発見されましたから、手術でしっかり取り切れれば、長期間の生命予後が期待できると思います。1例目の方は術後再発には注意し、厳重なるフォローアップが大事になりますね。