多発性嚢胞腎(PCK)について、症状、原因、検査、治療について詳細に説明しています。多発性嚢胞腎は常染色体優性遺伝で遺伝性疾患です。 多発性嚢胞腎(PCK)について、症状、原因、検査、治療について詳細に説明しています。多発性嚢胞腎は常染色体優性遺伝で遺伝性疾患です。

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多発性嚢胞腎(PCK)

先日、40歳台の男性が右背部痛、肉眼的血尿を主訴に当院受診されました。既往歴に尿管結石を3回経験しているとの事でした。ここまでの問診では、ほぼ右尿管結石による疝痛発作と考えられます。来院時理学的所見上ではすでに疼痛は消失しており、背部の叩打痛なども認められませんでした。尿路エコー上両側腎共に多発する腎嚢胞を認め、またところどころに高照度エコー領域を認めており、腎結石もしくは石灰化?と考えられる所見が認められました。膀胱内SOL(-)、PV(前立腺体積)16.27ml。


(左腎超音波画像)
多発性に見られる円形もしくは楕円形の低超音波領域が腎嚢胞、周囲よりも高照度(白色)が結石もしくは石灰化と考えられました。


(右腎超音波画像)
左腎と同様に多発する腎嚢胞および腎結石もしくは石灰化像を認めます。

また、来院時血圧測定にて収縮期血圧155mmHg/拡張期血圧111mmHg(正常値(診察室)130/80未満)、脈拍数125/分(正常値50-100)と高血圧と頻脈が認められておりました。尿沈渣上では赤血球多数/hpf、白血球0-1/hpfと尿路感染は無く、血尿がしっかりと出ていました。尿細胞診classⅡ(炎症性変化)。
先ほどの尿路エコー上では、尿管結石疝痛発作時に多く見られる右水腎症は呈しておらず、また、腎嚢胞が両側に多発していることなどから、多発性嚢胞腎を疑い後日造影CTを施行することとなりました。造影CT前には腎機能を把握することが必要なため、採血を施行したところCr1.83mg/dl(<1.04)、e-GFR33.4ml/min(<60)と腎機能の低下を認めていたため、依頼先の放射線科Drから腎機能障害があるが、造影剤を使用していいのか確認の電話が入りました。現時点ではぎりぎり造影剤使用前に点滴で水を負荷して腎血流量を増やし、また、造影剤使用後にもwash outすれば大丈夫であろうと判断し、造影剤使用のgoサインを出しました。


(造影CT冠状断像です)
両側に多発する腎嚢胞と嚢胞壁の石灰化(超音波で認められた高照度エコー領域に一致)、肝嚢胞が認められました。


(胸部造影CT横断像)
心拡大と両側胸水貯留が認められています。

すると、予想通り両側腎に多発する腎嚢胞を認め、そのせいで腎臓自体が通常よりもかなり腫大しています。また、超音波で認められた高照度エコー領域は、腎結石ではなく嚢胞の隔壁の石灰化であったことが判明しました。他には、心拡大と両側胸水も認めており、高血圧や頻脈症状は腎機能障害からくる体液貯留⇒心不全兆候を来たしていると考えました。他、尿酸値9.4mg/dl(<7.0)と高尿酸血症を来たしており、これも腎機能障害からくる尿酸排泄が遅延しているためです。尿中蛋白定量検査では0.93g/gCr(<0.15)と微量な蛋白尿しか出ていませんでした。
多発性嚢胞腎は遺伝性疾患で、正式名称は常染色体優性多発嚢胞腎(ADPKD:autosomal dominant polycystic kidney disease)といい、我々臨床の現場では通称PCK:polycystic kidneyと呼んでいます。
疫学的には人種に関わらず、罹患率が1000人に1人、血液透析患者全体の3-5%を占めていると言われています。患者のうち約半数は60歳までに血液透析を導入するようです。多発性嚢胞腎は定義上両側腎が嚢胞でおかされており、片側や部分的腎嚢胞は含まれないとされています。
今回の様に、右背部痛や血尿を主訴とするケースがやはり多いようで、原因は嚢胞形成から腎腫大による圧迫感、鈍痛に加えて嚢胞破裂や小動脈瘤からの出血により血腫が生じ、またのう胞内の感染によっても疼痛が生じます。また、出血が腎実質だけではなく、尿路に交通した場合に血尿が出現します。腎以外の随伴症状としては、高血圧が70-80%に生じ、肝嚢胞を60-70%認め、今回の症例にも当てはまっております。他には脳動脈瘤を20%、8%に頭蓋内出血を生じるようで、もはや全身多臓器におよぶ疾患です。
今回の症例は、一見右尿管結石で決まりかと思いきや、実は多臓器に渡る疾患であったわけで、腎機能低下の進行の具合によっては速やかに血液透析導入への準備(ブラッドアクセスetc)、心不全や血圧のコントロール、脳内未破裂動脈瘤の有無をMRI画像で精査したりとクリニックの外来レベルでは到底followしきれないため、まずは近隣の腎臓内科が所属する病院へとご紹介させていただきました。
会社の検診では特に異常は指摘されていなかったとのこと。つくづく、初療時のスクリーニングエコー検査って大事だなあって改めて感じました。あ、ちなみに常染色体優性遺伝ですから家族歴が重要ですよね。叔父が血液透析をしているとの事でしたが、親兄弟については何も語られませんでした。叔父の兄弟である両親のどちらかが、遺伝しているはずですね。