小児の陰嚢水腫について、交通性と非交通性についての鑑別方法、診断、検査について詳しく説明しております。 小児の陰嚢水腫について、交通性と非交通性についての鑑別方法、診断、検査について詳しく説明しております。

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小児陰嚢水腫

以前にも小児の亀頭包皮炎のお話をさせていただきましたが、当院で3番目に多いのが、陰嚢に関わる疾患です。
緊急性のあるものとないものがありますが、今回は緊急性はないものの、手術適応の有無や、鼡径ヘルニアとの鑑別を要する疾患である小児陰嚢水腫についてお話させていただきます。
前日にお風呂に入っている最中に右陰嚢が膨れているのに気が付いて、当院を受診された5歳のお子さん。痛みなどはなく、今朝は一旦戻ったが、またすぐに同じ状態になったので気になって来院されたとの事。
理学的所見上は、弾性軟で圧痛なし。透光性試験(ペンライトなどの光を陰嚢にあてて光の透光性をみる検査)ではライトが陰嚢内を通過し、陰嚢内が透けて見える状態でした。これは、陰嚢内容が水であることを示しており、陰嚢水腫の特徴です。


透光性試験:translucency test 陰嚢内容が水であるため、光が通過して陰嚢内が透けて見えています

さらにより客観性を高めるために陰嚢エコーを施行したところ、精巣の周囲には低エコー領域(echo free space)が存在しており、エコー上も右陰嚢水腫に矛盾しない所見でした。


陰嚢エコー:精巣周囲に液体貯留を示すecho free spaceが認められます

ただ、小児の陰嚢水腫は大人のと違い、注意すべき点があります。それは、腹膜鞘状突起が開存している交通性陰嚢水腫(腹腔内と陰嚢が固有鞘膜を介してつながっている状態)と開存していない非交通性陰嚢水腫とがあり、前者は内容物が液体であれば陰嚢水腫なんですが、腸管が内容物となると鼡径ヘルニアになってしまいます。今回エコーにてそれらを鑑別すべく、固有鞘膜を精索に沿って上方まで追っかけて行きましたが、矢印のごとく途中盲端となっていたので、腹腔内との交通はないものと判断し、非交通性であると認識しました。


矢印のごとく、エコー上では腹膜鞘状突起は閉鎖しているように見えます

陰嚢の膨れ方もそれほど大きくなく、日常生活でも邪魔にはなっていない範疇とのことであったので、まずは待機的に経過観察をすることとしました。(一応、教科書的には、陰嚢水腫の自然治癒率は新生児100%、乳児95.7%、幼児68.9%、学童46.2%で、自然治癒までの期間は新生児で半年以内、乳児が1年以内、幼児は約2年、学童は約3年と報告されているようです。)
エコー上腹膜鞘状突起が閉鎖しているように見えていても、小児の陰嚢水腫はミクロレベルでは何らかの交通があるものと考えた方がよいとされており、また、大きさに変化をきたしている今回のケースも交通性があるためとも考えられるため、慎重に経過を見ていく必要があると考察しました。
今後は増大傾向を示すようになった場合に再度受診していただき、交通性陰嚢水腫が強く疑われる場合には、鼡径ヘルニアに準じた手術方法となるため、泌尿器科ではなく、小児外科に紹介となりますね。