右背部痛、発熱を主訴に受診された患者さん。急性腎盂腎炎の診断のもと精査加療中に、右腎盂癌が発見され、右腎尿管全摘術を施行されました。 右背部痛、発熱を主訴に受診された患者さん。急性腎盂腎炎の診断のもと精査加療中に、右腎盂癌が発見され、右腎尿管全摘術を施行されました。

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急性腎盂腎炎の発症を契機に発見された腎盂癌の一例

もうかれこれ4年ほど前の話になりますが・・・。
当時60歳代の女性が数日前から排尿時痛、残尿感などの下部尿路症状に付随して37℃台の発熱と、右背部痛もあるとの事で当院受診されました。
初診時理学的所見上腹部所見としては、圧痛や筋性防御は無いものの、右背部に叩打痛あり。
尿路エコー上左腎傍腎盂嚢胞(+)、右水腎症(+)、膀胱内SOL(占拠性病変)(-)。右背部の叩打痛があって、エコー上右水腎症が認められているとなると、まずは右尿管結石が鑑別診断の1位に挙がってきますが、今回は発熱と下部尿路症状を伴っています。単なる尿管結石による疝痛発作ではなく、尿管結石嵌頓による急性腎盂腎炎も視野に入れ、精査していかなければなりません。エコーの盲点は尿管の情報が得られない事なので、レントゲンにて、結石の有無を確認したところ、はっきりとした結石陰影が認められませんでした。結石成分はだいたいシュウ酸Caやリン酸Caなどが主流でカルシウムを含む結石は骨と一緒でレントゲンに写ってくるんですが、今回は写っていません。となると、X線陰性結石(尿酸結石etc)や尿管腫瘍などが考えられるため、単純CTで確認することとしました。


右腎エコー画像:腎盂腎杯が拡張している、いわゆる水腎症の像を呈しております。(尿管内に閉塞起点があると考えられます) エコー上ではCTで見られたような腫瘤は分かりませんでした。

尿沈渣上ではRBC5-9/hpf、WBC20-30/hpfと白血球優位の所見で尿路感染の存在が明らかでした。また、緊急採血を施行したところ:WBC16300↑(基準値3300-9000)、CRP12.4↑(基準値<0.3)と優位に上昇しており、右急性腎盂腎炎の診断のもと同日抗生剤の点滴を施行し、抗生剤の内服加療も開始しました。翌日撮影した単純CT上では右腎が左腎に比して大きく腫大しており、また右腎盂の拡張(エコーで見られた水腎症)を伴っており、腎盂粘膜の肥厚像も認められました。肝心の尿管結石は写っておらず、閉塞起点ははっきりせず。


単純CT画像:んー、どう見ても単純撮影の時点で腎盂内に腫瘤形成ありますよね?

放射線科の読影結果では腎盂腎炎による粘膜の浮腫による肥厚像となっておりましたが、私の指摘見解では腎盂癌や腎盂および腎盂尿管移行部における上皮内癌等による粘膜肥厚像ではないかとも考え、きな臭さを拭い切れない疑り深い私は不安に思う患者さんに経緯をお伝えし、今度は造影CTを施行してもらう事にしました。すると・・・・。


造影CT画像:しっかりと腎盂内の腫瘤部分に造影効果がみられていますね。


また、排泄性尿路造影では腫瘍部分が陰影欠損として映し出されている、いわゆるfilling defectが見られております。

尿路のシェーマです:腎盂ってあんまり聞きなれない解剖の名称ですが尿が濾(こ)し出されて初めに尿が溜められるスペースです。尿路とは腎盂に始まり、尿管、膀胱、尿道の総称になります。

右腎盂から腎盂尿管移行部にかけて粘膜の肥厚像を認め、しっかり造影効果が認められておりました。初診時尿培養検査の結果は大腸菌でしたので、急性腎盂腎炎は確定しましたが、尿細胞診の結果はclassⅡ(良性所見)でしたので、病理学的に確定診断を付けてからでないと、右腎尿管全摘術は出来ないため近隣施設へご紹介させて頂きました。後日尿管鏡および生検の結果、尿路上皮癌、high grade、pT1の診断となり、術前化学療法後右腎尿管全摘術を施行されたとの事でした。摘出標本からは癌組織は検出されず、化学療法ですでに癌細胞は消滅していたようです。つまり、右腎盂癌は根治出来た(癌を克服した)事になります。ただ、再発のリスクが完全に無くなったわけではないので、厳重なるfollow upは必要になります。
当院受診から4年も経過した今回の症例を紹介したのは、つい先日患者さんの旦那さんが当院受診された際に、”妻が大変お世話になりました、今もおかげ様で元気に過ごせております”、とお礼を述べて下さったおかげでカルテを見返してみたからです。
普段待ち時間に追われながら日々こなしてく日常診療の中で、今回の様に一言でもお礼や感謝の気持ちが聞けるとまた頑張ろうって気になりますね。