血精液症の症状と診断、病態、治療について 血精液症の症状と診断、病態、治療について

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血精液症

先日40歳台の男性が1か月前から精液に血が混じるようになったと来院されました。男性は女性と違って、けが以外で自分の身体から出血することに対しての免疫がほぼ皆無に等しいので、この患者さんに限らず、みなさん神妙な面持ちで来院されます。(昔、火の玉が出たら人生終わりだ!!などとびっくりされる方がいらっしゃいましたが、火の玉ボーイは五味隆典だけで充分ですね)
理学的所見上、腹部に異常所見なし。直腸診上、やや前立腺の腫大を認めるも、硬結等はなし。両側精巣に異常所見なし。
尿路エコー上左腎W.N.L、右腎石灰化(+)、膀胱内SOL(-)、前立腺容積33.90ml(<20ml)と前立腺の腫大を認めました。尿沈渣上赤血球0-1/hpf、WBC0-1/hpfと血尿、尿路感染等は認められず。
血精液症の原因として最も多いのが炎症(感染)であり、次いで精嚢腺の出血、医原性(前立腺生検後)、悪性腫瘍(前立腺癌、精嚢腺癌)などが挙げられています。
実臨床の場では、前立腺炎によることがほとんどであるため、初診時に抗生剤(前立腺への移行が良いとされているニューキノロン系が第一選択)と生薬、止血剤を処方し、定期的な射精を励行とし、経過を見ます。前立腺癌を否定するため、PSA採血も同時に行います。
今回の方は、PSA11.1ng/ml(F/T15%):正常値4未満(F/T27%以上)であったため、前立腺癌の疑いあり、MRIを施行したところ、T2強調画像において右精嚢腺が低信号領域となっており、右精嚢腺からの出血と診断されました。前立腺癌はMRI上では否定されました。


MRI画像:右精嚢腺がT2強調像にて、低信号領域となっており精嚢腺からの出血と診断

その後経過としては、徐々に精液の色調は薄まっていき、最終的にclearになったのは約3か月経過してからでした。(治癒するまでの期間は、内服終了までの1-2週間で完治する方もいれば、個人差があります)
MRI上では前立腺癌は否定されたものの、PSA高値であったため、炎症だけの要因であればPSAが下降していくはずだったんですが、10.9⇒9.1と順調に下降していったものの、その後10.1と再上昇傾向を示したため、画像ではとらえられない前立腺癌も存在するため、近隣施設に前立腺生検の依頼をしました。結局病理診断は悪性像なしでした。
当院では新患で月数例ぐらいの症例数ではありますが、再発するケースも珍しくなく、お目にかかるケースはそこそこいらっしゃいます。
患者さんの心理状態としては、血が出たイコール癌では?と連想されて不安を抱えて来院されます。でも、この血精精液症という疾患は、加療しなくとも自然消退するケースもあり、悪性疾患が潜在している可能性は非常に低いことを説明し、不安を取り除いてあげることが我々泌尿器科医の使命であると考えております。ただ、やはり、稀ではありますが、血精液症を主訴に進行性前立腺癌(膀胱頸部や精嚢腺への浸潤を来たした場合など)が発覚するケースがありますので、慎重を期することは言うまでもありませんが。